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amazarashi 3rd Full Album

二一一六

2016.02.24 Release

世界収束エンディングノート オリジナル小説「花は誰かの死体に咲く」
初回生産限定盤A BUY

amazarashi 3rd Full Album

世界収束二一一六

初回生産限定盤A

CD+DVD

オリジナル小説「花は誰かの死体に咲く」、詩集本 封入

AICL 3068~9 ¥3,500 (Tax Out)

CD

  • 1

    タクシードライバー

  • 2

    多数決

  • 3

    季節は次々死んでいく(TVアニメ「東京喰種√A」ED)

  • 4

    分岐

  • 5

    百年経ったら

  • 6

    ライフイズビューティフル

  • 7

    吐きそうだ

  • 8

    しらふ

  • 9

    スピードと摩擦(ノイタミナ「乱歩奇譚 Game of Laplace 」OP)

  • 10

    エンディングテーマ

  • 11

    花は誰かの死体に咲く

  • 12

    収束

DVD

[amazarashi 5th anniversary live 3D edition 2015.08.16]
後期衝動
季節は次々死んでいく
ヒガシズム
冷凍睡眠
スターライト

[MV]
多数決
初回生産限定盤B BUY

amazarashi 3rd Full Album

世界収束二一一六

初回生産限定盤B 5000枚限定

CD+amazarashiフィギュア

AICL 3071~2 ¥3,500 (Tax Out)

CD

  • 1

    タクシードライバー

  • 2

    多数決

  • 3

    季節は次々死んでいく(TVアニメ「東京喰種√A」ED)

  • 4

    分岐

  • 5

    百年経ったら

  • 6

    ライフイズビューティフル

  • 7

    吐きそうだ

  • 8

    しらふ

  • 9

    スピードと摩擦(ノイタミナ「乱歩奇譚 Game of Laplace 」OP)

  • 10

    エンディングテーマ

  • 11

    花は誰かの死体に咲く

  • 12

    収束

通常盤 BUY

amazarashi 3rd Full Album

世界収束二一一六

通常盤

CD

AICL 3070 ¥2,778 (Tax Out)

CD

  • 1

    タクシードライバー

  • 2

    多数決

  • 3

    季節は次々死んでいく(TVアニメ「東京喰種√A」ED)

  • 4

    分岐

  • 5

    百年経ったら

  • 6

    ライフイズビューティフル

  • 7

    吐きそうだ

  • 8

    しらふ

  • 9

    スピードと摩擦(ノイタミナ「乱歩奇譚 Game of Laplace 」OP)

  • 10

    エンディングテーマ

  • 11

    花は誰かの死体に咲く

  • 12

    収束

花は誰かの死体に咲く

 晴臣は苛ついていた。
 自宅から徒歩二十分ほどだろうか、ひまわりハウスに向かっている。いくら冬も終わりかけだからといっても、これだけ歩けば汗が滲む。ジャケットのナイロン生地が首に張り付いて不快だった。
 住宅街の雪はほとんど溶けてなくなっていたが、それでも空き地には除雪車が寄せ集めたであろう、土がまだらに混じった雪が晴臣の背丈ほどは積上っていたし、朝方は水溜りが凍り、おかげで自転車での出勤は諦めざるをえなかった。
 荒くなった息が口元を覆うスタンドカラーから白く漏れ、歩くたびにふっふっと噴き出し蒸気機関車のようだ。晴臣は苛立ちを燃料にして歩いて、舌打ちを繰り返した。ときには人とすれ違うたびに。ときには一歩ごとに。

 川沿いまで出て、ひまわりハウスの目前まで来た。出勤時間は七時五十分の約束だが、まだ七時三十分をすぎたあたりだ。川沿いに積み上げられた雪の山でひまわりハウスを死角にし、たっぷりと時間をかけて煙草をすった。春が近いとはいえ、この時期には急に雪が降ることもあったので、早めに家を出るのだった。しかし、そういう自分の生真面目さにも晴臣は苛立った。

 以前まで川に群がっていた白鳥もいなくなっていた。空は曇りがちで憂鬱な気分にさせられたが、もう晴臣は諦めていた。晴れてたってどうせ憂鬱なのは変わらないと知っていた。
 スマホで時間を確かめる。七時四十分。先月から母親にネット回線を止められている。ただの時計としては大きすぎたが、それでも肌身はなさず持ち歩いているのは学校や友達との繋がりに名残惜しさを感じているからかもしれない。
 その証拠に、待ち受け画面は体育祭のときに仲間内でとった写真だ。皆おどけて映っているが、こういうときには胸に重しが伸しかかったように感傷的に見えた。そろそろ待ち受け変えなきゃな、と考えながら晴臣はひまわりハウスへ歩きだした。

 風除室で地面を蹴り、ブーツの泥水を払い玄関のドアをあける。子供ら数人の騒ぐ声が、暖房の暖かい空気とともに屋外へ噴き出す。晴臣はため息を吐いてジャケットを脱ぎ、玄関の外套掛けにフードから引っかける。廊下から保育室へと進む。

「おはようございます」
 くぐもった声で晴臣が挨拶すると、数人の子供らが膝のあたりに纏わりついてくる。
「おはよう」
 勝瀬が保育室の隅にある机から背中をむけて大きな声で答える。ストーブの近くに陣取り、正座した膝に子供を座らせている真樹も微笑みながら答えた。
 東側に面したテラスサッシでは桜庭園長が外を眺めていた。晴臣同様、両膝に子供が二人しがみついている。今日は珍しく園長がいるな、と晴臣は思った。

「ねえ勝瀬、そろそろ花植えようか」
 桜庭園長が外を見たまま言う。勝瀬は立ったまま、机で書類整理でもしてるのか、背中で答える。
「まだ早くない?雪、残ってるでしょ」
「大丈夫だよ、空き地の雪は溶けてるから」
 桜庭園長はそう言うと振り返り、晴臣と目があった。「あら、いたの」と微笑み、足元から子供たちを引きはがしストーブの近くにあぐらをかいた。

 ひまわりハウスは託児所だ。一般的な住宅を改築しただけの小規模な認可外託児所で、保育士は五名だが、昼間はたいてい晴臣、勝瀬、真樹の三人でまかなっていた。夜間保育もあり、夜間専任の保育士もいるのだが、晴臣は姿を見た程度しか知らなかった。
 晴臣がここで働きだして一ヶ月。まだ任されるのは雑用ばかりで、大抵は子供と遊ぶだけだった。仕事らしい仕事というものを教えてもらったことはほとんどなく、乳児用のミルクの作り方も知らない。一度、勝瀬からおむつの変え方を教えてもらっただけだ。
 晴臣はこの時間が無駄だと感じていた。業務を終えるまでの九時間、あくびをこらえて子供の相手をするだけ。だいたい子供が嫌いだった。言うことを聞かないし、気が短い晴臣には怒鳴り散らすのを我慢するだけでストレスだった。少し叱れば泣きじゃくり、涎を垂らすし、すぐに嘔吐するし、あとはお漏らしとか、そういうのを片付けるのは大抵晴臣の仕事だ。

 それに、ここに勤めるために、金髪を黒く染めなければならなかったし、ここには女性しかいないし、一番若い真樹ですら二十代後半だ。十七歳の自分とおばさんたちでは話しが合うわけはないし。いや、とここで晴臣は思う。だいたい、これは罰みたいなもんなんだから愚痴ってもしょうがないか。心を無にして時間がすぎるのを待つだけだ。少なからず先生たちは優しかったし、それほど重労働でもないし、それに、ここに来てから両親とも機嫌がいい。以前と変わらず会話はないが、ヒステリックに怒鳴られることも最近はない。ここに勤められたのは幸運だったのだ。晴臣は自分にそう言い聞かせた。

「ねえ晴臣」
 桜庭園長が晴臣に声をかける。晴臣は寄って来る子供たちをあしらいながら返事をする。
「ホームセンターいって花買ってきてくれない?ねえ真樹ちゃん車で送ってあげてよ」
 真樹は、「はい、いいですよ」と微笑みながら即答する。
 晴臣は分かりましたと言いながら、面倒だなと心で舌打ちをした。花なんか園長が自分で買いに行けばいいじゃないか。桜庭園長は託児所にはたまにしか顔をださない。地域の奉仕活動やボランティアに熱心らしく、方々訪ねてまわって忙しいと勝瀬や真樹に聞いたが、晴臣にはそれが遊び歩いているふうにしか見えなかったのだ。
 それでも晴臣には断る選択はなかった。ここにいる間はほとんど「はい」だ。そしてたまに「いいえ」

「今めんどくさいと思ったでしょ」
 書類整理を終えた勝瀬が悪戯っぽい表情をして晴臣に言った。勝瀬は桜庭園長と同い年くらいだろうか。自分の母親より年上に見えたので五十代前半だろうと晴臣は予想していた。快活でハキハキしゃべり、冗談好きだった。子供達を叱るときも淀みなく大声でぴしゃりとやるさまは、子供たちには恐れられていたが、子供たちの父兄には頼もしく思われているようだ。
「いいえ」